イニュニックとはエスキモー語で、「生命」を意味するという。
これは先日先輩隊員の家にお邪魔したときに、ふと目に止まった本の題名。
著者は星野道夫さん。
アラスカに魅せられ、自然や動物の写真を撮り続けた写真家。
彼の写真の魅力は知っていた。
風景の写真はもちろん、クマの親子を撮った「クマよ」という写真集がすてきで、教室に置いていたこともある。
彼の著書を初めて手にした。
アラスカの大自然を描写する、美しい文章。
マイナス50度の寒気が支配する、あらゆるものが凍りつく世界。
多くの人たちにとっては未知と恐怖の領域であろう。
人間は、動物は、そんな世界で命を繋いでいけるのだろうか。
でも彼が紡ぐのは、1年の大半を占める雪の世界を生き抜く、動物たちのひたむきな生の営み。
クマの親子の成長を見守り、カリブーの大移動を感じ、雪の中を羽ばたく小さな鳥に生命の尊さを思う。
どこまでも広がる針葉樹の森、永久凍土の大地、暗く長い冬の夜、吹き荒ぶ吹雪・・・
そんな厳しいアラスカの自然を、どうしてあんなに愛しく形容できるのだろう。
星野道夫さんが描くアラスカの自然は、なんとも荘厳で美しい。
彼がアラスカを愛していたことが、よくわかる。
長く暗い冬が終わり、夏に向かう喜びを。
「SNOW」ではなく、エスキモーの人々によって語られる、いつくもの雪を。
すごいなあと思う。
こんなに厳しい自然の中に飛び込み、そこで暮らし、根を張っていく。
その逞しさと、それを美しいと愛でる繊細な感覚。
すごいなあと思う。
自分が感じたものから生まれてくる言葉の響き。
五感で感じる地球の営み。
そんなものを、いつか私も感じて、自分の方法で表現できたらと思う。
ところで。
冬の無いモルディブに住んでいると、冬に対する「憧れ」のような気持ちが生まれる。
冬って寒いんでしょ?
コートとか、手袋とか、マフラーとかするんだよね。
でも雪って綺麗なんでしょ、見てみたいなあ。
いつの間にか冬ってどんなだったか忘れてしまった。
画像は、星野さんではなく、私がの撮影した北米(カナダ)の写真。
2008年末、オーロラを見にイエローナイフに行った。
外気温は-37℃。自分が吐く息も凍る、凍てつく世界。
そんな所にも、人々の生活が当たり前のようにあった。
+40℃の世界で暮らす私。
-40℃の世界で暮らす彼ら。
人間って、生物って、自然ってすごいなあ。