この国で活動する隊員が守るべき「きまり」。
その中のひとつに、「現地人(日本人以外)を自宅に入れてはいけない」というのがある。
理由は当然、安全上の理由から。
日本とは違い、任国では盗み等の犯罪も多い。
その多くは、自宅や部屋の構造を知っている者によって行われる。
つまり、事前に入ったことがある奴・よくこっちを観察している奴が怪しい。
他の島や他の国で、物を盗られたという話を聞く。
残念ながら、よくある話。
でも。
このとてつもなく小さな島では、「物を盗られた」という話をほとんど聞かない。
ここは250m×500mという、嘘みたいなサイズの島。
警察はいない。いらない。
3家族から構成されている住民組織は、当然ながら誰もが顔見知りで。
顔見知りどころか、家族・親族・血縁関係者だね。
いつ、どこで、誰か何をしているのか、お互いよーく知っている。
よく出来た相互監視システム。
それで抑制し合っている。
人の目や口や耳と言うものは、何とも恐ろしいもの・・・
ここで学んだこと。
「何事も出過ぎないよう、目立ちすぎないように」
「公の場と個人の場で、立ち振る舞いを使い分ける」
この2つ。
こんな島で悪いことをしたら、生きていけない。
誰がやったかなんてすぐに分かる。
500人が見てるし。
海に囲まれてるから逃げられないし。
だから、犯罪のないこの島。
少なくとも私は、聞いたことがない。
前置きが長くなったけど、誰もが家族のようなこの島では。
はっきり言って、先の「きまり」を守るのなんて無理!
ここの家も、あそこの家も、親戚の家。
どの家だって出入り自由。
日中は鍵も掛けない。
喉が乾いたから水を飲むし、お腹が空いたら食べ物だってつまむ。
そして食後にはフォー(ビンロウの実)を噛む。
ジョーリ(紐で編んだイス)に座って涼をとる。
世間話だってして、情報を共有しないといけない。
そんな島なのよ、ここは。
私の部屋だけ治外法権という訳にはいかないでしょ。
なので。
最近よく家に来る2人をご紹介。
①隣の家のラフハーヌ(1年生)
以前はよくブリッジを見せに来たけど、ここ数日はトランプやUNOをしに来る。
でもまだルールをよく分かってない。
今日は4回も来た。
ちょこっと日本の映画を見て、「ありがとう」「わたし」という言葉を聞き取って、喜んでいた。
モルディブ人って、かなり耳が良い。
この子はいつも当然のように台所をあさり、冷蔵庫を開け、好きなものを食べる。
私の許可は一切得ないし、「ありがとう」の言葉も無いけれど、これは標準的なモルディブ人の行動なんだろう。
②「アイランド・カウンセラー」の異名を持つハンマドゥ(6年生)
インターネットがしたいとやって来る。
サッカー選手の画像を検索し、画面に映ったそれを私のデジカメで撮り、今度首都で現像して来いと言う。
何かおかしなことしてるよね?
いつも島中神出鬼没のこの子。
島のことは何でも知っている。誰とでも顔見知り。
何かあったら、こちらまでご相談を。
ベッドの上でトランプをするラフハーヌ(左)とハンマドゥ(右)。
こうやってみんなとりあえずはベッドに座るから、いつだって私の寝床は砂だらけ。
「きまり」は守らないといけない。
みんなが気持ち良く生活するために、「きまり」はある。
人が集まるとそこに、集団ができる。
集団にはその集団の、「きまり」が生まれる。
その集団がうまく機能するために、守らなくてはならないもの。
家族の、学校の、社会の「きまり」。
「きまり」を守らずに痛い目に遭うのは自分自身。
そしてそれは、周囲に迷惑を掛けるということにもなる。
でも。
「郷に行っては郷に従え」という言葉もあるし。
どうかな、どうでしょう?